2023/02/16 02:02
前回では「Re;Pic」が単一のアップコンバート用ソフトではなく、複数のソフトを組み合わせるワークフローによって実施される点が判明した。今回は、従来のアプコンとの「違い」と「こだわり」についてレポートする。
――「Re;Pic」と既存のアプコンの違いは何でしょうか?
A氏:例えばAI系のアップコンバーターは、類推した輪郭をある程度勝手に作っちゃうんですよね。それ自体は鮮明な映像になっていいことなのかもしれないんですけど、素材が不鮮明であればあるほど嘘の画を作っちゃうんです。無理やり「こうだろう」っていう結果を出してくるので、誰もが知っている女優さんや映画スターの顔が違って見えたりするんです。
――確かにCGで俳優を若返らせる効果も、まだ違和感があることは多いですね。
A氏:画像としてはキレイになっていても、顔が違ってしまえば本人もファンも怒りますよね。実際、新幹線が走っている映像をAIアプコンした際、「あれ?窓の装飾が変わってない?」みたいなことも起きたんです。
元を知らない人が比較せずに見る分にはAIのアップコンバートもいいと思うんですが、古い作品となると古くからのファンも観るわけですから、そもそも別物に見えてしまうアプコンってどうなんだという疑問もありました。
結果的には時代と逆行してるんですけど、手作業が増えましたね。ワークフローも細分化して、自分たちの目で判断して、ソフトで調整して、また目で確認するっていう作業が増えました。個人的なこだわりかも知れませんが、AIがダメな部分をそのままにしてしまうのは心が痛むので、大変だけど当社ではやっていこうと(笑)。
例えばフィルム作品にはフィルム特有の粒子ノイズが乗ってるわけですよ。それが全部なくなると画質的にはキレイではあるんですが、シネマティックな感じは薄れてしまう。だから当社ではフィルムの粒子ノイズは本来あるべきものだとして極力消さないんです。
当時観ていた人たちが「こんなんだっけ?」とは思わない範囲で盛り上げる。オリジナルのフィルムやビデオの特性を超えないようにする。もし超える必要があっても、あくまでも自然に見える範囲を心がけています。
――どんどんハードルが上がっていきますね。これまでもSD画質のレストアはあったと思うんですが、Re;Picでどのくらいキレイになるのか説明いただけますか?
A氏:まず素材が35ミリフィルムか16ミリフィルムか、それともビデオかが重要で、特にフィルムで撮られたものだとレストア後の画質の期待値が上がります。でも実際には35ミリでもそんなにキレイじゃない素材もあれば、16ミリでもちゃんとピントが合っていてレストアに向いている素材もある。わざと演出でピントを甘くしてる場合もあるので、本当に作品や素材によりけりではあるんですが。
ただ当社ではSD素材をHDくらいにアプコンすれば、パッと見てキレイで自然な感じにはなりますね。ですがSDから4Kにアプコンすると、今度は元素材がディテールを捉えきれてないことが如実にわかってしまう。上位フォーマットにした方が観ていて不自然に感じてしまうんですね。肌の質感もSDでは捉えきれてなかったりするので、あえてフィルムのグレインを追加してディテール感を出すこともあります。こうなると演出の領域になってきますね。
ビデオの場合だと放送用のインターレースという規格(奇数番号の走査線と偶数番号の走査線を順番に表示して映像の1フレームを構成する規格)のせいで、若干ハードルが上がります。
(第3回に続く)
(聞き手・構成:村山章)
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